稀譚舎に寄ったが生憎中禅寺の妹は留守だったので、蘇部に踏みつけられて痛む頭をさすりながら神保町の探偵、榎木津礼二郎の許に向かった。
 『薔薇十字探偵舎』の扉を開けると、顔中にバンドエイドを貼り付けた安和寅吉がタンバリンを鳴らしながらインラインスケートを履いてさっそうと登場した。
 「ありゃ、先生、いらっしゃい。相変わらず後期クィーン問題について悩んでいるんですかい」
 「探偵の先生はどうしたい?」
 「先生はまだ寝室にいやすぜ」

 榎木津は寝台の上に胡座をかいて、目の前に山と積まれた衣類を眺めていた。
 「エノさん、起きているのかい?」
 「起きているとも!」
 改めて見ると、彼は女ものの緋色の襦袢を肩から引っ掛けている以外は下穿き一枚しか身につけておらず−−
 えっと、北山は女装を払拭するために榎木津に立候補したはずだけど、これじゃあ・・・まあいいか。
 とにもかくにも私はこれまでのいきさつを話すと、何だかよく分からないうちに探偵としてこれから来る久遠寺涼子に会うことになってしまった。

 カラン、と鐘が鳴った。
 私はビクリとして椅子から三寸程飛び上がった。上げた視線の先に女の白い顔があった。
 「あの、こちらは榎木津先生の事務所でございましょうか」
 私も、寅吉も、ほんのちょっとの間ではあるが口が利けなかった。
 「(日明、白く塗りすぎ)」
 「(鈴木その子か?)」
 「そうです。ここです。あ、久遠寺様ですね。ど、どうぞこちらに」
 寅吉は凄い早さで客の所まで行き、素早く招き入れた(インラインスケートを履いているので当然である)。
 「私の妹、久遠寺梗子は、現在妊娠二十箇月を迎え、未だに出産の気配もございません。そして梗子の夫である牧朗もまた噂通り失踪致しております−−」

 彼女の話は大筋のところでは私の知っている通りだった。
 ただ、藤牧夫妻の夫婦関係がその当時あまり良好ではなかったらしいこと、失踪当夜もかなり激しい口論をしていたらしいことが新たに判明した。
 藤牧先輩は住込の見習い医師、内藤と梗子さんの仲を疑っていたらしい。

 「それで、牧朗氏が失踪した当日のことなんですが、どういう状況だったのか、もう少し詳しく」
 「私はその日留守にしていましたものですから直接は知らないのですが、どうやら夜中に大層な喧嘩があったらしくって−−その後、明け方近くに牧朗さんは部屋に閉じ籠もって鍵を掛けてしまったらしいんです」
 その部屋は出入り口は二箇所、どちらも中から鍵が掛かっていた。
 翌日の午後になって使用人と内藤で鍵を壊して入ったが誰もいなかった。
 壊した方の扉は梗子が寝ていた寝室に通じているが、彼女は興奮して一睡もしていなかったためここからは出られない。
 もう一方の部屋は狭く窓もない暗室のような部屋だが、鍵が内側から掛かっており抜け出すことも出来ない。

 「ふむ・・・」寅吉はジャラリとタンバリンを鳴らした。
 「解ったぞ。犯人は、内藤だ! なあ伊藤」
 「伊藤じゃねえ!」

 「こちらの方がおっしゃるように、父は妹と内藤を疑っているのです」
 「やっぱり、やっぱり(ジャランジャラン)」
 「黙れ!」
 「母は牧朗さんが妹を呪っているのではないかと−−ですから、牧朗さんがどうなったのか、はっきりと判るような−−証拠が必要なのです」

 「それがあなたのご家族の溝を決定的に広げてしまうことになったとしても、あなたはその証拠とやらが欲しいのですか?」
 突然部屋から出てきた榎木津は、珍しく真面目な面持ちで口を一文字に結んで久遠寺涼子を注視(みつめ)ている。
 「それは、どういう意味に受け取れば宜しいのでしょうか」
 「額面通り、そのままの意味です」
 「私は、家族を信頼しております」
 「牧朗君は家族ではないのですか」
 「少なくとも、今は違います」

 「二つだけ、質問があります」
 探偵は唐突に言葉を発した。
 「事件の調査を僕に依頼するというのは、いったいどなたのお考えですか」
 「私です。進駐軍の通事をしておりました知人から、先生の評判を聞きました」
 「ほう−−」
 榎木津は意外だ、といわんばかりに顔を顰めた。
 「ではもうひとつ。あなたは、嘘を吐いていませんか。あなたはこの関君を−−ご存知の筈だ」
 「残念ですが、存じ上げません。お考え違いをなさっているのではございませんか」
 「そうですか。では結構」
 榎木津はそういい残すとさっと部屋に入ってドアを閉めてしまった。
 久遠寺涼子は明日の午後一時に久遠寺病院に出向く約束をすると、ゆっくりと、深くお辞儀をして去っていった。
 さすが秘書。PDAに書き込む手つきとお辞儀がサマになっている。

 「あーあ、タンバリンを鳴らすチャンスがなかったよ(チャリンチャリン)」
 「鳴らさなくていいよ!」

 「榎さん、さっきのあれは何です! 説明してください」
 「−−君は本当にあの女に見覚えはないのかい?」
 「え?」
 「−−それにしても−−あれは死んでいるだろうなあ。うん−−あれじゃあ死んでいる」
 「誰が死んでるんですか」
 「藤牧だよ。それはあの女も知っている筈だがな−−」
 「あなたはまだあの人を疑っているんですか? 僕は確かに探偵じゃないが、それでも多少は人生経験を積んでいる。その経験からいわせて貰えば、彼女は嘘は吐いていない」
 「そうかもしれないが−−だったらきっと忘れているんだろう」
 「死んでいるってことは、秋月あたりがやりそうだな(ジャラジャラジャラ♪)」


 秋月「嫌だーーー!」
 生垣「はい、カーット! 次はミス敦子が出てくるシーンだけど準備はいいかな」
 関田「あれは恐ろしい闘いでしたね(涙)」
 小路「ああ、恐ろしかった」
 矢野「あれくらいやらないと、サバイバルゲームには勝ち残れないんだな」
 さて、勝者は?




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